初恋の向こう側
不幸にも、俺もそのターゲットに選ばれてしまったことがある。
あれはまだ小学校に入学したばかりの頃。
その日学校から帰った俺は、近所の公園に遊びに来ていた。
当時テレビで大人気だった戦隊物の人形を手に、地球儀形のジャングルジムのてっ辺に座って友達を待っていた。
急に空が黒い雨雲に覆われ、大粒の雨が降りだし、慌てて地面に降りようとした時に足元がグラリと揺れたんだ。
恐る恐る下を見ると……。
オークとその取り巻きが、ニタニタしながらジャングルジムのパイプを握り締めていた。
そしてオークの顔が急に真顔になった時、奴等の足が動きだした。
回転式の遊具が音を立て、目に映る景色が変化していく。
ゆっくりだった速度も徐々にスピードを増していき ──
雨で濡れた鉄パイプを必死に握りしめている俺の視界を、降り飛ばされ宙に舞った人形の姿が横切っていった。
今でも、あの日見た流れる景色をよく覚えている。
結局あの後、近所の大人を連れて駆けつけたヒロによって助かった俺だけど。
あの日の恐怖と泥まみれの人形を拾いあげた時の虚しさは、しばらく頭から拭うことができないでいたんだ。