初恋の向こう側
次の授業の準備をしていると、オサがこんなことを言い出した。
「でもさ、俺も耳にしたことあるんだ。椎名と成沢さんが一緒にいるとこ見たっていう話」
顔を上げると目が合った。
「でも、前にオサ言ってたじゃん? 成沢はアサミとかいう元マネと付き合ってるって」
「付き合ってるなんて言ってねーよ。デキてるって言っただけ」
それを聞いて思い浮かんだのは、球技大会の日に見た実験室でのあの光景だった。
「成沢さんて、そういう付き合い相当派手らしいよ。
三年だけじゃなくて、一、二年にも何人も手つけてるってさ」
……って、そんな奴とヒロが噂になるってどういうことだよ?
「その話、オサはいつから知ってんの?」
「んーと……最初に聞いたのは、夏休みが終わってすぐくらいかな。
椎名の事ならアズマも知ってるだろうけど何にも言わないし、単なる噂だって思ってた。
……でもよ?」
「何だよ?」
「球技大会の時、成沢さんに椎名の名前訊かれたの覚えてないか?」
そう言われて記憶を辿ると、確かにそんなことがあったかも。
「……あの成沢と、ヒロが?」
「でも俺は、ただの噂だと思うぜ?」
オサは、何の根拠もなくそう言った。