初恋の向こう側
同時に振り向いた小野崎の表情が変化したことを、俺は見逃さなかった。
そして、目が合ったのに席を立とうとしない俺にしびれを切らしたヒロが、教室の中へ入ってきた。
「梓真! 呼んでるのに何やってんの?」
頬っぺたをぷっくりと膨らませたヒロが傍に立つ。
「あー悪い。でもさ、こちらの彼が俺に大事な話があるって離してくれないもんだから…」
言いながら目の前にいる男を顎で差す。
すると「ふうん」とヒロが小野崎をジロジロと眺め、その視線を受け体を硬くした奴がキョロキョロと目を泳がせた。
そっか。コイツ、ヒロのこと ──
そういうわけなら、やってやろうじゃんっ。
「ヒロ、それで何か用だった?」
ヒロの方へ体を寄せ、それらしく見えるように柔らかく笑った。
「あっ そうそう。この前のアレね、また頼みたいんだけど?」
「あっ あー、アレの事な。
じゃあさヒロ、今夜俺ん家に来いよ?」
そして、そっと小野崎の顔を伺う。
「うーん……やっぱり梓真がウチに来てよ?」
「おう、いいよ」