木苺の棘
その男性が、私へと
差し出した物。

それは巽のジッポライター。

受け取った私は、まじまじと
ライターを見つめた。

ある日の、ジッポの火を
つけては消すを繰り返す
巽の姿を思い出す。

「どうして、これを?」

「これは、あなたが
 持っているべきだ」

「貴方は・・・誰?」

貴方は、私の問いかけに
答える事無く、黙ったまま
煙草を吸い続ける。

そこへ、現われたのは
露歌さん。

スミレ色のドレスの裾が
ひらりと揺れる。

「お久しぶりね、イサミ
 いつ、娑婆に出て来たの?」
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