観念世界
片づけ
『片付け』


 僕は熱しやすく醒めやすい。
夢中になるとそれまでの夢や希望なんかをそこいらへんに置きっぱなしにしてそのことだけに集中してしまう。

 今日もそんなふうにしているとたまたま遊びに来た友達がそれらで散らかった部屋を見て
「夢や希望はいつでも見えるように手元に置いておかなきゃ駄目だよ」
と言ったので久しぶりに整理することにした。


 ひとつひとつ見てみると、はしっこが欠けてしまっていたり、すっかりくすんでしまっ
て磨く気にもならないのなんかが結構あって、僕は濡れぞうきんをゴミ袋に持ち替えて、その中にもう要らなくなったそれらをぽいぽいと放り込んだ。
 どれもこれもその時々で確かに僕を夢中にさせたとてもきれいなものだった筈なのに今見れば陳腐でへんてこりんな形だったりしてとっておく気にはならなかった。


 そんな中にそれはあった。


 それは長い時間かけて沢山の瓦礫みたいな夢や希望の下敷きになって粉々になっていたけれど、まるで割れた水晶みたいに透き通って、窓から入る光を反射してキラキラ光って、あの頃と変わらないとてもきれいなふうでそこにあった。

 そう、これは僕の礎だ。今の僕を構成する、その第一歩だったものだ。

 壊れてなお光るそれの破片を僕はひとつ残らずかき集めた。
 破片はそれまでゴミ袋に放り込んだ夢や希望に結構くっついていて、結局ゴミ袋の中身をまた全部出してしまったけどそれをそのままに、何とかかき集めた破片を直そうとした。

だけどどうしても形が思い出せなくて、結局そのまま今も机の上で過去をすっかり内包して切ないような、それでもまだ何かを諦めていないようなキラキラした様子で、柔らかな日の光を反射している。


《おわり》
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