観念世界
「このシャボン玉にはね、みんなのお願いが入っているの」

 これはいやなやつー、少女は仕事をする手を休めることなく私に教えてくれました。

「これが全て?」
 私はあまりの量にびっくりしてしまいました。
「そうよ。まぁテイドの大小はあるけど、っておばあちゃまは言ってたけど、私にはよく分かんない」
 これははじけさすやつー。
 少女に指でつつかれたそれはぱちんと弾けて中からキラキラと虹が舞い散りました。
「綺麗だ」
 あまりの美しさに見とれ、私は無意識に呟いていました。
「弾けると願いが叶うの」
 少女はシャボン玉を掌で押しながら言いました。これはいやなやつー。

「はじけないものはどうなるのですか?」
「また下に落ちてぺしゃんってなるの。ショウカするんだっておばあちゃまは言ってたわ」

 足下を見ますと、思ったより沢山のシャボン玉がふわふわと落ちて来ておりました。それらは草に触れると遠慮がちに割れ、中の虹はあっという間に消えてゆきました。まるで最初から何もなかったかのように。

 ショウカは消化なのか、昇華なのか。私には分かりませんでした。

「何だか切ないですね」
 消えたシャボン玉の跡を見つめる私に少女は言いました。
「それは人を悲しませたり、願った本人が悲しくなったりするいやなやつなんだっておばあちゃまが言ってた。ただ叶わないだけのもあるみたいだけど」

「そうか。なるほど」
「よく知りもしないのにドウジョウやレンビンを向けるのはオカドチガイなのよ」
「それはおばあ様がおっしゃっていたのですか?」
「そうよ」
 少女はシャボン玉から目を離すことなく答えました。
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