観念世界

　不思議に思い、更に更に覗こうとしましたら、遠くの方から女の子の声が聞こえて来ました。

　声のする方を向きますと、小さな女の子が若草のような柔らかい緑色の長い髪をずるずると引きずりながらぺたぺたと裸足で歩き、「このシャボンははじけさすやつー、このシャボンはいやなやつー」と大声で言いながら指でつついたり掌でぐいと押したりしておりました。

　その無邪気にシャボン玉と戯れる様子がとても愛らしかったので私は声をかけました。

「こんにちは。お嬢ちゃん。シャボン玉遊びは楽しいですか？」

　すると少女は明らかに不愉快な顔で私をひと睨みして言いました。

「ごきげんよう。ですが失礼、これは遊びじゃないのよ。大事なお仕事なの」

　そう言ってまた「これはいやなやつー」と大声で言いながらぐいとシャボン玉を掌で押しました。

「それは失礼」
　私は手短に非礼を詫び、
「失礼ついでにこれはどのようなお仕事なのかお尋ねしてもよろしいですか？」
と聞いてみますと、少女はぷいとこちらを見てまたぷいとシャボン玉を見て、
「お手伝いよ」と言いました。

「ほう」
　私が感嘆の声を上げると少女は「信じてないでしょ」と冷ややかに一瞥をくれ、言いました。

「これは人のお願いを叶えるお仕事なのよ」