観念世界
 少女がちょっと休憩、と言うので、私のポケットに入っていたラムネを食べることにいたしました。

 並んで座り、ラムネを口に放り込むと、舌に乗った途端にほろりと溶けて、跡形もなく消えてしまいました。

「ラムネはまるで叶わぬ願いのようですね。口に入れた途端消えてしまいます。最初からなかったみたいに」

「でも香りが残るわ。甘さも」

「そうですね」

 そこも似ている、と私は思いました。叶わぬ願いも余韻があるところが。
 何もなかったように見えても願った自分は消えないのです。

「今日はあなたと話せて良かった」
 私の微笑みに少女も応えました。

「最後にひとつだけ。あなたは一体何者なのですか?」

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