観念世界
花の妖精
『花の妖精』

 種をまけば花と一緒に花の妖精が育つ、という種がバーゲンで安く売っていたので思わず買ってしまった。

 今、何故よりにもよってヒマワリなんかにしたのかと猛烈に後悔している。

「ごしゅじんー、ねーったらぁー」

 モノトーンのすっきりした部屋の片隅で差し色にいいじゃないかと買ってしまったヒマワリの周りを蝶々くらいの大きさの黄色い妖精がせわしなく飛んでいる。もともと一人で静かにしてる方が好きな俺にはいささか、というか、かなりうるさい。

 今も人が静かに本を読んでいるのに全く意に介さないのか、それとも嫌がらせか、ひっきりなしに声をかけてくる。

「ねーねーねーねーねー、ごしゅじんー、ねーったらぁー」

 呼びかけをまったく無視して本を読んでいると、妖精はふわふわとこちらに飛んできて俺の耳元までやって来て耳の穴に顔を突っ込んできた。そして、


「ご主人ご主人ごしゅじんごしゅじんごしゅじんごしゅじんごしゅじん…」

「だー!」

 ついにこっちが根負けした。


「判ったから耳の中に直接話しかけるのはよせ!こう、むずむずするから!」

「だって呼んでも返事してくれないんだもん」
 妖精は悪びれた様子もない。

 俺はひとつ溜め息をつく。そして本を置き、妖精に向き合った。確かに呼ばれて無視をするのはいけないことだ。
「判ったよ。悪かった。で、何?水ならさっきあげただろう?」


 すると妖精、しゃらっとこう言った。
「ううん。用はないの。ただ呼んだだけ」

 俺は心の中でギャフンと言った。そんな俺に、妖精はちょこっとふくれ、拗ねたように口を開く。


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