かけがえのないキミへ


でも私が引き出しから出したのは、永遠の別れを決意したという印のもの。


『離婚して下さい。綾音は私が引き取ります。もう私のサインはしてあります。あとはあなただけ』


『…分かった』


夫はペンで記名をしていく。
私は下を向いて終わるのを待っていた。


一生を誓った人と、永遠に別れる。
一枚の紙が、人生を左右する。


幸せの人生だった?

今こんな質問をされたら私は言葉に詰まってしまう。


腕や足や顔にある痛々しい傷跡は、幸せの傷跡ではない。

不幸せな傷跡。


私は傷がある腕をぎゅっと握った。

その瞬間、涙が一粒ながれ落ちた。


涙を見た夫は、ペンを止めて、私に向かってこう言った。


『幸せ…にな…』


夫を見上げると、夫の表情が…あの頃に戻っていた。
あの頃…私が愛していた頃に…
優しい夫に…優しい笑顔に…


今なら答えられるかもしれない。



不幸せより、幸せの方が大きかった、と。



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