MONO
MONO
この話は、自分で自分を慰めるしかなくなった小説家の話です。

最初の哀しみはいつだったのか、最初の諦めはいつだったのか、最初のもがきはいつだったのか。
もう思い出すことは出来ませんでしたが、彼は、それをいつも何等かの手段によって紛らし、普通の生活を保ってきました。
保ったといってもそれは、彼が生きた22年間だけのことで、世の平均寿命とは程遠い年数です。
彼は愛されて育った子供でした。
だから彼は、愛されないということを恐れたのかも知れません。
しかし実際に彼を愛したのは彼の家族だけでした。
彼が出会った人間は、彼が思うほどにしか彼を思っていない。彼は透明な寂しさというものを知りました。
そしてそれに魅せられて、飲み込まれました。
愛されて育った人間が、皆彼のようになるとは限りません。
人の運命というのは、最初から最後まで、細部にいたるまで決まっているのです。
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