魔王に捧げる物語
時間は少し遡る。
ミラとイシュは広い城下町を探索中だった。
はぐれてしまっては困るので手を繋いで。
そこに至るまでに一悶着あって、恐れ多いと連呼するのを懐柔するのには骨が折れた。
誰かと手を繋いで歩くの小さな夢で、小さくて可愛らしい彼と手を繋げて彼女は大満足だ。
多少の不安はあるが、この街の人々は彼女の事を知らない。
キュッと小さな手を握ると、気付いたように覗きこんできた。
「どうかなさいましたか?」
「え……?…ぁ、なんでもないの」
いろいろと気遣ってくれるイシュにこれ以上気苦労はかけたくない、それもあって言い淀んでしまった。
「お疲れになりました?」
「すこし、でも大丈夫だよ。イシュは?」
「わたくしは大丈夫。この街は発展しているので、あの方の側ほどではありませんが、たくさんの魔力に満ちていて好調なのですっ」
そうなんだ……。
自然すぎて人ではない事も忘れてしまう程、彼は人の世界に溶け込んでいる。