キミが刀を紅くした

「大和屋が消えたって?」



 私が誠の御方に説明しているのを聞いて、一番驚いていたのは瀬川さんだった。彼は信じられないとばかりに何度も確認をする。



「大和屋は何故、消えたんです」


「存じません。私は良くお話をさせていただく間柄で、今夜もお約束をしていたのですが」


「それに来なかったって訳か」


「そうです」



 歳三さんは私を見ながら考えていた。彼はきっと何か裏があると読み取ってくれるに違いない。

 私は続けた。



「宗柄さんは待っていろと仰っていたのですが、待っても待っても一向に来て下さらなくて」


「待ってろと言ったのか」


「はい。確かに」



 歳三さんは私の目を見て頷く。彼には伝わったはずだ。全貌は知らなくても良い。宗柄さんの策は彼の存在が街から消える事に意味があるのだから。



「誰かに襲われた可能性も考えられるな。さっき瀬川が言った通りこの辺りには紅椿が出るからな」


「でも土方さん、大和屋は」


「頼りはあんたが見たって言う証言だけだ。まだ奴が紅椿に加担していると言う確定は出来ない」


「……そうですね」



 瀬川殿は頷き、一歩下がった。



「何にせよ、大和屋を探して話を聞かなきゃ何も分からねぇ」


「じゃあ俺が探します」


「総司、一人で行くのか?」


「事を荒立てると大変なのは土方さんでしょうよ。任せて下さい。必ず見つけてみせますから」



 外に出て行こうとする総司さんを見て、私ははっとする。もう一つの事を言い忘れてはいけない。



「総司さん」


「なんですか?」


「お困りでしたら花簪へお越し下さい。もしかすると何かの手がかりがあるかも知れません」


「――あぁ、成る程。分かりました。ご協力に感謝します」



 彼は笑顔で夜に飛び出した。

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