キミが刀を紅くした

 宗柄さんの策とは、瀬川さんと慶喜殿を引き合わせる事だった。徳川の背後にある組織だと知れば内密にしてくれるかも知れない、との考えかららしい。勿論簡単に納得してくれる相手ではない。それは彼も重々承知していた。

 だから彼が一度消える必要があるのだ。紅椿の疑いをかけられた男が逃げた。そうして紅椿の事を知る男が残った。瀬川さんが。

 今現在で紅椿を追う為に調べられるのはただ一人、瀬川さんだけだ。慶喜殿と会わせる彼を今ここで逃がすわけにはいかない。


 私は立ち上がった。



「中村、何処へ行く」


「そろそろ御暇させて頂かなくてはなりません。夜も更けて参りましたし、瀬川殿も、どうです?」


「しかし私は――」


「よろしければ花簪へお越し下さいませ。今宵は遅い。翌日に、頓所までまた御一緒致しましょう」


「……そう、そうですね。そうさせていただいても良いですか?」



 歳三さんは眉間にシワを寄せたまま頷く。本来事情を聞かなければいけない人を逃してはならないのは知っているけれど。

 今はそれよりも重大なのだ。
 私は先に瀬川さんを外に送る。



「後は私にお任せを」


「大丈夫なのか」


「えぇ。後で瀬川さんの手配が回るかもしれませんが……それを上手く何とかして頂ければ」


「手配ってお前、何する気だ」



 私は笑んでその場を後にした。外に待つ瀬川さんに会釈をして歩き出す。彼は黙ったまま後ろに着いて来てくれた。これで良い。

 今、花簪には客はいない。いや紅椿の仕事をしたから一人だけ亡くなっている人がいらっしゃる。



「すいません、椿殿」


「お気になさらないで下さい。頓所にずっとこもってらっしゃると息が詰まるでしょう?」


「助かります」


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