愛と云う鎖
その時、部屋の扉が控え目な音を立て開いた。


「まぁ!マリー様、今日はお早いお目覚めですわね!お早う御座います。」


聞き慣れた侍女の声にマリーは右腕で素早く涙を拭った。


「お早う。昨晩は中々寝付けなくって起きてしまったわ」


何も気付かれぬように明るく振る舞う。


振り向いたマリーの瞳が潤み、赤くなっている事に侍女は心配したが、彼女が寝不足だったという事を聞き納得したように微笑みかけた。


「マリー様は今日でお年が15になられますからね。もう立派な成人の仲間入りですから楽しみでお眠りになれなかったのでしょう」


マリーは侍女のその言葉に、曖昧に笑うしか無かった。


「さぁ、寝不足でしょうけれども今日はマリー様にとって大事な日になります。身仕度を美しく整えて今日という日をお過ごし下さい」


そう言って支度に取り掛かろうとする彼女にマリーは感謝の意を言葉にした。


「ありがとう…」


マリーの声が少し震えたような気がして、彼女は棚から出したドレスから少女に目を移したが、マリーが明るく微笑んでいるのを見て口の端を上げて頷いた。


この時のマリーが口にした『ありがとう』が身仕度を整える事だけの言葉では無い事は、マリー本人のみにしか知り得ない事だった。






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