Sin(私と彼の罪)
スガヤは俺に条件を要求した。
なんとなくわかってはいたのだが。
内容は、いたってシンプルなもの。
ただし、その重みは計り知れない。
一生涯、スガヤの元につき働く。
それが、ヤツの示した条件だった。
今までの俺だったら、ふざけるな、と怒鳴り散らしただろうが、甘んじて受け入れた。
受けて立とうじゃないか。
元々、組織からは抜けられない身だ。
志乃のためならば、俺の一生などなんでもない。
自分のマンションに戻った俺は、これから記憶をなくす志乃のためにストーリーを組み立てる。
今更だが、彼女が俺のことまで忘れていた場合は二人でいること自体が不自然だ。
しかし、本当に彼女は俺のことまで忘れるとはかぎらない。
というか、忘れないでほしかった。
しかし、俺の我がままなどちっぽけなもの。
彼女が幸せならば、それでいいだろう?
俺はそれが本望だろう?
自分の大きなベッドに眠る志乃を眺める。
俺は、自分の考えた筋書きを思い浮かべながら、彼女に覆いかぶさる。
至近距離で久しぶりに見たが、こんなにこの女は小さかっただろうか。
そしてこんなにも、愛しかっただろうか。
そう言えば、と思って苦笑する。
俺はしょうもない男だな。
彼女の頬を撫で、キスをする。
一度したら、おさまらなくて何度も何度も唇で触れた。
小さく睫毛だけ揺れたが、他は人形のまま。
でもこれも、今日で終わりだ。
彼女は明日、なんでもない一日をおくる。
俺には、それがどれだけ嬉しいことかも知らずに。