Sin(私と彼の罪)
「今晩、暇?」
「冗談はやめてよ」
「冗談じゃねーよ」
ぱっと視線を外した彼女をいいことに、もう一度近づく。
今度は逃がさないように、壁に両手をつけた。
口元がゆるゆると上がる。
こういう強気の女は、嫌いじゃない。
「…仕事に戻りたいんだけど」
思いっきり嫌な顔をする彼女。
眉には深い皺、少しとがった唇。
俺はせせら笑う。
だから、そういう顔をされると、さ。
無理にでも従わせたくなる。
「仕事終わるまで待ってるよ」
「…は?」
「だから、待っててやるから。先帰ったりすんなよ」
「いやいや、なんで?」
わけがわからない。
そんな言葉が顔からにじみ出ている彼女を笑ってみせる。
「志乃のこと、もっと知りたいから」
俺がそう言うと、眉をひそめながら頬を赤くした。
そうだよ。
それこそが正しい反応だ。
女はそういう生き物だろ?
お前も例外なんかじゃないんだよ。
「馬鹿なこと、言わないでよ」
戸惑っているのか、口調が弱くなる。
目は俺を見ることはせず、横に背けられる。
わかりやすくて、思わず苦笑した。
「嘘じゃない」
ここぞとばかりに志乃に迫る。
もう少しでキスができそうな近さだ。
このままキスでもしとこうか?
俺は半ばゲームの感覚で彼女に近づいた。
ぐいぐいと志乃は俺の胸を押して反発したが、もちろんそんなことじゃ、びくともしない。
強がっているくせに、頬は赤みをさしたままだ。
色が白いせいでよく目立つ。
林檎のようで可愛らしかった。
「ちゃんと待ってろよ。わかった?」
「わ、わかったから!だから、放して!」
「はい、ドーゾ」
了承を得た、と思い彼女を解放する。
すると志乃は俺を一瞥して、逃げるようにホールに戻っていった。
俺は遠ざかる彼女の後姿を見ながら、無意識にほくそ笑んだ。