Sin(私と彼の罪)
ヨコイはこの女のどこを、気に入ったのだろう。
おれは目の前の志乃を観察する。
「…何」
俺の視線に何か感じたのか、彼女が振り返った。
手に持ったマグカップからは、温かそうな湯気がたっている。
そこからは、ミルクティーの香り。
「見てただけ」
「あそ」
そう言って俺に背を向けた。
彼女の目線は既にテレビのなかの若手芸人にいっている。
俺と志乃が初めて会ったあの日から、数ヶ月が経っていた。
まるで男を寄せ付けないような彼女に、これでもかというほど強引に距離を縮めた。
嫌がる志乃と一緒に帰ったり、無理やり部屋に入ったり。
俺がその気になれば、一人の女に取り入るのはたやすいことだ。
と、言っても志乃はガードが固く、このポジションにつくのも大分苦労した。
しかしどれだけ一緒にいても、志乃からヨコイの情報が漏れることはなかった。
聞くところによると、ヨコイは月に一度しかグリモワールに訪れない。
それでも古くからの客なので、大体の従業員は顔見知りだ。
中でも、お気に入りなのが志乃というわけなのだが。
確かに彼女は色白の美人だが、絶世の美女というわけでもない。
それにお気に入りと言っても、カウンターで長時間に渡って世間話をするだけで、艶めかしい関係なわけでもない。
俺は一向に訪れないヨコイに苛立ちながら、変速しない現状に焦りを感じていた。
「アンタさあ」
CMに入って暇なのか、志乃は俺に向き合った。
ここは彼女の部屋なのだが、俺は我が物顔でクリーム色の小さなソファに寝そべっていた。
もちろん手には煙草。