Sin(私と彼の罪)
「善」
自分を呼ぶ声に立ち止る。
面倒臭い、そう思って振り向いた。
「なんだよ、タキ」
長身の男が近づいてくる。
俺も背は高いほうであるが、こいつには勝てない。
「何か進展はあったか?」
滑らかなアッシュの髪がさらさらと風になびく。
スマートな色男だ。
「いや、特には。お前はどうなんだよ」
スガヤに見はれと言われたメンバーの一人。
俺よりも先にグリモワールに潜入し、ヨコイについて調べていた。
もう一人のヨージは、常連としてこの店に通いつめているらしい。
さすがに小さな店なので一気に3人も雇用するわけにもいかず、そういう形になったのだ。
3人も一気に常連となれば不自然だが、1人ならば問題はない。
しかし俺はヨージにはあまり目を向けていない。
裏切り者というのはタキだと確信しているからだ。
なにしろ、タキは仕事がはやい。
それは仲間内でも有名なことで、スガヤにも気に入られている。
頭の回転の速さといい、殺傷能力といい、完璧だ。
何度か依頼を受けて共に行動したが、組んでいて楽だったのを覚えている。
こいつが組織を裏切っているのだとしたら、納得がいく。
スガヤは口ではああ言っていたが、胸の内では裏切り者はタキだと断定しているだろう。
それだけの力量がある。
そして、野心も。
「実はな、来たんだよ。ヨコイが」
「やっとか…」
「ああ。昨日お前のいない間にな」
果たしてそれが、意図的かどうかは置いておこう。
「一人で来店したんだが、どうも不用心だよ。組織のトップでもある男が部下も連れずにくるなんてな」
「一人で…?」
「店にはな。多分横付けされてた外車に仲間がいたんだろうが」
「それでなにか、情報は漏らしたか?」
「いや…スガヤには、ヨコイの資金調達の方法を探れと言われたが、それらしいことは何も」