Sin(私と彼の罪)

息の上がった志乃を見て不敵に笑う。




「さあ、言えよ」




お前は俺には適わない。


そうだろ、志乃。




「…っ…さいあく」

「知ってる」



白い肌を真っ赤にして眉間にしわをよせる。

りんごみたいだ、と思ってするりと指を滑らす。


そしてやっと彼女の重い口が開いた。




「お母さんが」



入院中の志乃の母親。


この話をするとき、彼女は決まって影を落とす。

それなのに志乃は母親のお見舞いに毎週必ず行く。

俺はそのたびに違和感を覚えていた。




「容体が悪いのか?」

「それもそうなんだけどさ…」



なんとも歯切れが悪い。


目線は下で、表情はわからないがどうせ暗い顔をしているだろう。


俺は先を促す。




「最近、お母さんの機嫌が悪いの」

「今に始まったことじゃないだろ」



志乃の母親の精神は不安定だ。
彼女が罵倒を浴びたり、物を投げられたりするのはいつものことなのだ。



「でも、前よりひどい」



俺はゆっくりと志乃を抱き締める。

セックスのとき以外、進んで女を抱き締めたりなんてしないが、今は別だった。

志乃の横顔が儚く、脆く見えた。


この手に存在を確かめたいと思った。



「シイナには、相談したんだけど…」

「そうか」


シイナとは、志乃の妹だ。
幼い頃に両親が離婚して、母親に志乃。父親にシイナがついていったらしい。


それでもふたりは仲が良いと聞いた。



俺も何度か会ったことがある。


美人で、とちらかというと冷たい雰囲気をもった志乃とは違って、柔らかい感じの女の子だった。


< 86 / 126 >

この作品をシェア

pagetop