Sin(私と彼の罪)
息の上がった志乃を見て不敵に笑う。
「さあ、言えよ」
お前は俺には適わない。
そうだろ、志乃。
「…っ…さいあく」
「知ってる」
白い肌を真っ赤にして眉間にしわをよせる。
りんごみたいだ、と思ってするりと指を滑らす。
そしてやっと彼女の重い口が開いた。
「お母さんが」
入院中の志乃の母親。
この話をするとき、彼女は決まって影を落とす。
それなのに志乃は母親のお見舞いに毎週必ず行く。
俺はそのたびに違和感を覚えていた。
「容体が悪いのか?」
「それもそうなんだけどさ…」
なんとも歯切れが悪い。
目線は下で、表情はわからないがどうせ暗い顔をしているだろう。
俺は先を促す。
「最近、お母さんの機嫌が悪いの」
「今に始まったことじゃないだろ」
志乃の母親の精神は不安定だ。
彼女が罵倒を浴びたり、物を投げられたりするのはいつものことなのだ。
「でも、前よりひどい」
俺はゆっくりと志乃を抱き締める。
セックスのとき以外、進んで女を抱き締めたりなんてしないが、今は別だった。
志乃の横顔が儚く、脆く見えた。
この手に存在を確かめたいと思った。
「シイナには、相談したんだけど…」
「そうか」
シイナとは、志乃の妹だ。
幼い頃に両親が離婚して、母親に志乃。父親にシイナがついていったらしい。
それでもふたりは仲が良いと聞いた。
俺も何度か会ったことがある。
美人で、とちらかというと冷たい雰囲気をもった志乃とは違って、柔らかい感じの女の子だった。