月の恋人
なにそれ、やめてよ
って、笑って言いながら
亜美が
「ちょっとトイレ」
と、席を立った。
あたしは
それを見送りながら、
『陽菜はどうしたいの?』
と、さっき言われた事が頭の中でぐるぐると回っていた。
あたしは………
……昔から、あまり我が強くないというか大人しい子供で。
幼稚園で、他の子におもちゃを取られても
泣くでもなく、怒るでもなく、ぼーっとしているような子で。
大概、近くにいる涼が
おもちゃを取り返してくれたり
イジメっ子を追い払ってくれたりしたから
悔しくも、怖くもなかった。
中学生になってもそれは同じで
クラブ活動だって
特に、コレ!ってものがなくて
料理クラブに入ったのも、
亜美が誘ってくれたからだった。
そんなあたしにとって
亜美の
『陽菜はどうしたいの?』
っていう質問は
すごく印象的で
同時に、
すごく難しいものだった。