月の恋人



「………………は?」


「……あっ……ちがっ……」


自分が、一番びっくりした。

どうして、涼を引き留めてしまったんだろう。



「……なに、まさか、寂しいの?」


「ちがうっ…」


「じゃ、この手は何なんだよ。」


「なんでもないってば!」


ダメだ、あたし。
もう無茶苦茶だ。

急に興奮したのと熱のせいで、泣きたくなんかないのに、涙が溢れた。


―――…でも
行って欲しくなかったんだ。

甘えすぎだと思うけど
――…心細かった。




「お前さぁ………」


コツン、と
おでこにひんやりしたものを感じて目を開けると

目の前に、涼の顔があった。

睫毛と睫毛が、今にも触れそうなくらい、近い。



「ワザとやってんの?」



視線が、交差する。
息が、頬にかかって…熱い。



どのくらい、そうしていたんだろう。

長い沈黙の後、涼が口を開いた。



「…………天才だな。」


そう言った涼の瞳には
何故か、哀しい色が滲み出して。


―――… どうして?


ワケが、解らなかった。











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