月の恋人
「ひとりに、したのは、涼じゃない……」
……たまらなく、不安になる。
ここで、また何かがあっても
もう、涼は助けにきてくれない。
あたしは、今、ひとりなんだ――…
胸に、ぽっかり穴が開いたような空しさを感じて、指先が痛くなるくらい、傘の柄をぎゅっと握り締めた。
穴が、これ以上
拡がらないように――…
恐怖なのか、悪寒なのか
力んだ体は、芯から冷えきっていた。
――――――…
「―――… 桜木、陽菜、ちゃん?」
雨音に紛れて、自分の名前が聞こえた。
――― な、に…
「ちょっ…、 待って!」
肩を強く掴まれて
振り返って見ると
そこには
翔くんが“タケル”と呼んでいた
あの大男がいた―――…