月の恋人
「雨の日に弾くってのもオツでしょ。」
ピアノの音に誘われてドアを開けたそこは、音楽室みたいな部屋だった。
壁は防音のためか、厚くなっていて
暗がりの中に、一台のグランドピアノと、なんだかよくわからない機械類のセットが沢山置いてあった。
「あの……」
「あぁ、服、ぴったりだったね、良かった。」
タケルさんはあたしを見て目を細める。
「… ありがとうございました。」
どうして、あたしにぴったりなサマーワンピースなんかがこの家にあるんだろう。
――…妹さんでもいるのかな。
とにかく、疑問が多すぎて、どこから何を質問していいのか混乱してきたあたしに、
「ねぇ、 なにか、歌ってよ。」
ピアノの鍵盤を気ままに叩きながら、タケルさんはとんでもないことを言った。
「…… はい?」