月の恋人









―――…  あ…りえ、ない。




ほかほかに温まった体を

ふかふかのバスタオルに包んで

あたしはひたすら
「ありえない」と、呟いていた。




ネコ足のバスタブ。

見たことも無い
横文字が書かれたシャンプー類。

高級ホテル仕様のバスタオル。




……バスルームだけじゃない。


落ち着いてタケルさんの家を見渡すと

調度品はすべてアンティークで統一されていて、どこもかしこも生活感がなくて


まるで、
海外のリゾートホテルのようだった。





「なんなの、これ…」




うちだってそれなりに裕福で大きいけど
たとえば、田舎の庄屋さんと都の宮殿くらいの差を感じる。





いったい、何者なんだろう、あの人…




頭に“?”マークをいっぱい浮かべながら浴室を出ると


転がるように軽やかな
ピアノの音が耳に飛び込んできた。





―――… ピアノ?






雨粒が鍵盤を叩くような…この曲は


ショパンの―――――…








「――…“雨だれ”…」





そう、声にした瞬間




「――… 正、解 」




タケルさんの手から生み出されていた雨が―…、やんだ。











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