月の恋人








「… りょう…」





声が 口が …震える。

果たして、この名前を口にしなくなってどれくらいだろう。





こんな発音だった?

こんな名前だった?




舌先が歯列の裏にそっと触れる

その感覚すら、もう慣れなくて


なんだか夢を見ているみたいで

その名前を呼んでいる自分に、現実感なんてかけらもなかった。










―――… 涼、だ…





ふわふわのくせっ毛。

茶色の瞳

あどけなさの残る頬と口元。



10日ぶりに捉えた涼の姿に
すぐに駆け寄って抱きつきたかったけれど


それをさせなかったのは、
瞬間、後ろから伸びてきた翔くんの腕。


必死で縋り付くような、声のない制止だった。





< 320 / 451 >

この作品をシェア

pagetop