月の恋人
◆
「… りょう…」
声が 口が …震える。
果たして、この名前を口にしなくなってどれくらいだろう。
こんな発音だった?
こんな名前だった?
舌先が歯列の裏にそっと触れる
その感覚すら、もう慣れなくて
なんだか夢を見ているみたいで
その名前を呼んでいる自分に、現実感なんてかけらもなかった。
―――… 涼、だ…
ふわふわのくせっ毛。
茶色の瞳
あどけなさの残る頬と口元。
10日ぶりに捉えた涼の姿に
すぐに駆け寄って抱きつきたかったけれど
それをさせなかったのは、
瞬間、後ろから伸びてきた翔くんの腕。
必死で縋り付くような、声のない制止だった。