月の恋人
【Apollo】
繁華街の路地裏にある
ひんやりした地下スタジオ。
いつもより気温が低く感じられるのは―…気のせいじゃないだろう。
ピアノの前で、タケルがため息をついた。
「そんな力入れて弾いたら切れるに決まってんだろ。…大体、んな曲じゃねーし。……どーしたんだ、お前?」
「……………悪い……」
「陽菜ちゃんが来てないことと、関係あんの?」
「…………………」
「…………また、だんまりかよ」
「…………」
バァン!とタケルが両手を鍵盤に叩きつけた。
不協和音が、室内に響き渡る。
「お前なぁ、いい加減その秘密主義なとこ直せよ!一体、何があったんだ? 陽菜ちゃんは急に来なくなるわ、お前はずっと上の空だわ……“何もありません”で、俺たちが納得する訳ねーだろ!」
「まぁまぁ、タケル」
ジョージがなだめるように言う。