月の恋人
「翔、別に1から10まであったこと全部話せって言ってる訳じゃない。けど…いま大事な時期だ。お前がこんなんじゃ…正直、不安だ。陽菜ちゃん、一緒に出てくれるんだろ?」
“大事な時期”――…
俺たちは来週から始まる、音楽コンテストに参戦する予定だ。
ジャパン・ティーンズ・ミュージック・フェス。
10代の若者を対象にしたコンテストで、各地区の予選を勝ち抜いて全国大会へと進む。
良いアクトで注目を集めれば、メジャーデビューへの道が開ける。若手アーティストにとってはプロへの登竜門というわけだ。
まずは地区予選だが、そんなものは余裕で勝ちあがるつもりではいる。
ただ―… 陽菜ちゃんがいれば、の話だ。
「…………陽菜ちゃんは、もうAnother(アナザー)のメンバーだ。彼女抜きの音楽なんてもう俺には考えられない。コーラスだけじゃなくて、いずれはメインで歌ってもらいたい。」
タケルが熱っぽく語る。
……コイツも、また陽菜ちゃんに魅せられている一人だ。
「――… だから、彼女は体調を崩して家で休んでるだけだって。そのうち練習にも顔を出すから、心配すんな。」
「……俺がそんな答えで納得すると思ってんの…?」
ピアノから離れたタケルが俺の前に立つ。
グイ、と顎を持ち上げられ、傷口を撫でられた。
「……痛っ…!!!」
「じゃぁ、なんでこんな音を出すんだよ?」
弦の切れたアコースティックギターを取り上げられる。
「お前の中身なんか、音聴けば全部わかんだよ。あんまり、俺らを見くびるなよ。」
「…………」
「また、だんまりか…」
ハァ、と気の抜けたようなため息が目の前で弾けた。
「余程言いにくいらしいな…」
ジョージが何かを察してそう呟いた。
「何があったんだよ……おまえら。」