月の恋人










『ずっと、そばにいるよ』





夕方の川べり。

俺の耳元で陽菜ちゃんは確かにそう言った。





彼女の桜色の唇から零れた

鈴のような軽やかな音色。

けどその内容は、何よりも重く俺に響いていた。











―――… ほんとうに?






やっと見つけた、俺のミューズ。

誰よりも近くに感じていた、双子のような、初恋の女の子。





すべてを持った陽菜ちゃんは、いまや俺の希望そのものだった。




陽菜ちゃんが笑えば、世界は色づく。

陽菜ちゃんに触れれば、温もりが宿る。




一旦手にしてしまえば、

彼女のいない世界は想像もできないくらい、毎日が輝きだした。









そう、だから――…






俺は、怖かったんだ。











陽菜ちゃんが時折見せる、なんとも言えない寂しそうな表情に。

会話の中で ふとした拍子に訪れる、小さな沈黙に。










―――… 涼の影を感じて。











< 332 / 451 >

この作品をシェア

pagetop