月の恋人
*
『ずっと、そばにいるよ』
夕方の川べり。
俺の耳元で陽菜ちゃんは確かにそう言った。
彼女の桜色の唇から零れた
鈴のような軽やかな音色。
けどその内容は、何よりも重く俺に響いていた。
―――… ほんとうに?
やっと見つけた、俺のミューズ。
誰よりも近くに感じていた、双子のような、初恋の女の子。
すべてを持った陽菜ちゃんは、いまや俺の希望そのものだった。
陽菜ちゃんが笑えば、世界は色づく。
陽菜ちゃんに触れれば、温もりが宿る。
一旦手にしてしまえば、
彼女のいない世界は想像もできないくらい、毎日が輝きだした。
そう、だから――…
俺は、怖かったんだ。
陽菜ちゃんが時折見せる、なんとも言えない寂しそうな表情に。
会話の中で ふとした拍子に訪れる、小さな沈黙に。
―――… 涼の影を感じて。