月の恋人
―――…
しばらく亜美とふたり連れ立って歩いていると、周りが次第に見慣れた景色になっていった。
通り沿いに連なる柳の木。
その向こうには、小さなため池。
春になれば赤い提灯のともる公園の先は―…学校だ。
亜美が連れて行ってくれたのは、あたし達が通っていた小学校だった。
――カキン―… キィン――…
一定の感覚で、金属音が響いている。
“ほらショート!しっかり取れ!”
監督の激が飛ぶ。
校庭では、地元の少年野球団がノック練習をしていた。
ユニフォームには“みそのジャガーズ”と書かれている。
走り回る少年たちの奥には、古タイヤを利用した遊具。
てつぼう、うんてい、バスケットゴール…
ほんの2年前まで毎日遊んでいた場所なのに
その、すべてがちょっとだけ小さく感じて。
なんだか、縮尺が狂ってしまったよう。
なんだろう、この気持ち。
なんだか、すごく―…
「――…なつかしい、ねぇ…」
亜美が、あたしの気持ちを代弁するように言った。