月の恋人




「え――――…ウソだろ!?マジで!??」

「え、振られたの!?」

「ほほう…」


ジョージにじいさんまで身を乗り出してきて、場の空気が一気に和んだ。




「うるせーな!お前ら!面白がってんじゃねーよ!それもあるけど、そーじゃなくて、陽菜ちゃんは今―…声が出ないんだよ!失声症っていう病気で…」


「―…失声症・・・?」


「あ…」






――…言って、しまった。







ほんとうは

“唯一”の陽菜ちゃんの声が失われてしまったという事実が重過ぎて

自分自身、なかなか、認めることができなかったんだ。



やっと見つけた、俺のミューズが
瞬時に消えてしまったようで。


大きな希望が、急に失われて。


ひとり、真っ暗闇に突き落とされたような気になっていた。


だけど、いざ口に出してみると

なんて、単純な事実なんだろう。




大きいけど、単純な問題。





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