月の恋人
◆
「どうも…今回のことでは、翔が大変なご迷惑をかけたようで…真理子さん、すみません。」
バンドとバンドの入れ替わりの僅かな時間に
大人たちは会話を交わしていた。
「あら、何の役にも立たないお詫びなんか要らないわよ。それより、悟さん…その頬…」
クスクス、と
ママが堪えるように笑い声を漏らす。
「……はい、今朝、兄貴に殴られました。いい加減にしろ、と…何十年ぶりかの鉄拳でしたね。相変わらず、兄貴は容赦ない。」
―――…パパが…?
おじさんはちょっと痛そうに顔をしかめて
でも、精一杯の微笑みであたしに言う。
「陽菜ちゃん、チケットと手紙をありがとう。読ませてもらったよ。君は―…」
おじちゃんの手元にあるのは、
ちょっと恥ずかしい、
ピンクのクマの絵が付いたキャラクター便箋。
いつかの、市民舞台の時のように。
自分の気持ちを相手に伝えるのに
やっぱり、あたしは手紙という手段が、好きなのかもしれない。