月の恋人






「どうも…今回のことでは、翔が大変なご迷惑をかけたようで…真理子さん、すみません。」


バンドとバンドの入れ替わりの僅かな時間に
大人たちは会話を交わしていた。




「あら、何の役にも立たないお詫びなんか要らないわよ。それより、悟さん…その頬…」


クスクス、と
ママが堪えるように笑い声を漏らす。



「……はい、今朝、兄貴に殴られました。いい加減にしろ、と…何十年ぶりかの鉄拳でしたね。相変わらず、兄貴は容赦ない。」








―――…パパが…?





おじさんはちょっと痛そうに顔をしかめて

でも、精一杯の微笑みであたしに言う。






「陽菜ちゃん、チケットと手紙をありがとう。読ませてもらったよ。君は―…」



おじちゃんの手元にあるのは、
ちょっと恥ずかしい、
ピンクのクマの絵が付いたキャラクター便箋。




いつかの、市民舞台の時のように。



自分の気持ちを相手に伝えるのに

やっぱり、あたしは手紙という手段が、好きなのかもしれない。



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