月の恋人
「昔と変わらず…翔のことを、大切に、思ってくれているんだね。」
にわかに、顔が熱くなる。
おじちゃん――…
「私には―…音楽というものはさっぱり分からん。翔が希望するように、将来、それで食っていく事など、想像もつかない。だが…さっきから彼らの演奏を聴いていて、ひとつだけ、感じるものがある。―…若者たちのエネルギーというのは…、眩しいものだね。」
熱気覚めやらぬステージと客席を見て
悟おじさんは、静かにそう言った。
おじいさんが口を開く。
「―…あんたの息子さんは、なかなか面白い才能を持っとるよ。まだ形は定まっておらんがの。叶うなら、どんな形でも構わん、音楽を続けさせてやって欲しい。これは、先達の切なる願いじゃ。」
「あなたは―…?」
「ああ、悟さん、あのね、こちらは―…」
ママが、おじいさんのことを悟おじちゃんに紹介している。
その、あたしたちの様子を
一歩距離を置いて見ている人物が、ひとり。
涼しげな麻のシャツに身を包んで
口元の栗色のひげを静かに撫でている、その人は―…
久しぶりに会う、母方の叔父。
ハーフならではの彫りの深い顔立ち。
ヘーゼルナッツ色の瞳。
――…圭介おじさん…。
スコットランドにいるはずの
芹沢圭介、その人だった。