月の恋人
「りょう―…」
久しぶりに聞く自分の声は
なんだかとても変な感じで。
あたし―…こんな声だった?
それは戸惑うくらい、芯の強い声だった。
それでも、言葉は
後から後から溢れてきて
止まらない。
もう、全然…止まらなかった。
「り…涼のバカバカバカバカっ!嘘つきっ!“そばにいる”って、言ったのにっ!勝手に家出てって…しかも、スコットランドに行っちゃうなんて、聞いてないよっ!」
口をついて出てきた言葉は
文句ばっかりで。
もうちょっと、優しい言葉を
かけてあげられれば…良かったんだけど
「別に、オレがいなくなろうが…大丈夫だろ?お前には、翔がいるんだから…」
「翔くんは、関係ない!」
「な――…」
そうだよ。
だって、翔くんに、涼の代わりは出来ないよ。
涼の場所は――…
「涼じゃなきゃ…ダメなんだよう…」
「こないだから、何言ってんだ、お前―…陽菜の言ってる“好き”は…」
――…あたしの…“好き”は―…?
…そんなの、知らない。
「あ―…あたしは…
あなたのお姉ちゃんで、
あなたの家族で、
あなたが必要なの。
あなたを、愛してる。
それじゃ、ダメなの?
ねぇ、恋って何?
恋じゃなきゃ、だめなの?
涼の代わりなんて、いないんだよ。
代わりなんて、誰にもできない。
それじゃ、ダメなの?
あたしを、ひとりにしないでよ―…!」