月の恋人
「もう! ママ……!」
「あっはははははは!何よ、今さら。ちっちゃい頃は人目も憚らずキスしてたくせに、2人とも。」
「それは、子供の頃の、話でしょ!?」
「――…子供の頃の、話なの?」
隣に座っていた翔くんが、静かにそう言って
そっとあたしの右手を握った。
「え?…と――…」
心臓まで、握られたみたい。
その場から動けない。
絡まる視線を、解けない。
翔くん…だから、そういうの、反則なんだってば。
「こ、コラ、翔っ…お前、まさか陽菜ちゃんにっ…」
悟おじちゃんが慌てたような声を出す。
――…あれ…、なんだろ この感じ…
「ハイハイ、そこまで。そーゆーのは、外でやってください。」
「り……涼…」
そうやって、割って入ってくる
涼の温もりに、ホッとしたりする。
あ、そうだ。これ…
子供の頃の…車の中に、似てるんだ。
あたしと翔くんが仲良しで
ママが後部座席で2人をからかって
おじちゃんが、
助手席でそれを見て困ってて…
――…戻ってくる、気がする。
うまく言えないけど、
昔みたいな
家族のバランスが
戻ってくるような―…
「ったく、姉のラブシーンなんて、世界で一番見たくない光景だぜ。」
「そりゃ、良かった。当分、見なくて済むぜ、多分。」
「あ?―…どういう、事だ?」
――――…翔くん…?
当分、見なくて済むって…どういう意味?