月の恋人
――…すごい。
ロンドンのブランド、広告、CM音楽…
すごいスケールの話が、いま、ここで展開されてる。
でも、圭介さんに突然話を振られた悟おじちゃんは、すごく困っていた。
「はぁ… 何とも私の理解の範疇を超えた相談でして…何とお返事して良いやら…。」
「まぁ、それもそうでしょうね。一度、ご検討いただければ。涼くんも、今回は留学を見送るという事ですし、明確な目的無しに、子供を海外へ出すのはなかなか大変なことですから。」
「お前らは、どう考えておるんじゃ?」
おじいさんが3人に話を振る。
「いや…そんな、願ってもないチャンスを棒に振るほど、俺は馬鹿じゃないぜ。ロンドンでもスコットランドでも、どこでも行くさ。」
「俺も―…って、俺らは別に翔ほど若くもないしな。来年18だし。」
「……翔は?」
「俺は、元々いつか日本を出ようと思ってたから。もちろん…行きたい。けど、まずは―…保護者の賛成が必要だな。未成年だからなぁ、俺。」
そう、ボヤくように言って
悟おじちゃんを見た翔くんの顔は、今までと全然違って見えた。
だって―…笑ってたんだ。
現状を、受け入れて
拒否も逃避もしないで
『保護者の賛成が必要だな』って笑って言うなんて。
こんな翔くん、初めてだ。
夏休みの最初に見た
物事全てを斜めに見てるようなニヒルな笑みとは全く違う。
――…もう、大丈夫。
翔くんの笑顔は、ちゃんと自分と周りを肯定してる。
ねぇ。
あたしたち、いま
だれも、後ろを向いてない。
だれも、何も、否定していない。
それが、こんなにも大切なことだったなんて
ようやく、気付いた気がするよ―…