手と涙 〜婚約者はピアノ講師〜
そう言って酒の匂いしかしない

生暖かい息を

柚香の首筋にかけてきた。


ゾクリと鳥肌が背筋から

逆走した。

口の中が急速に乾く。



「な、なんで・・・なまえ・・・」



やっとの思いでそう告げると



「かーんたーん♪

座席表に書いてあるんだよ~」



そう言いながらその顔をじりじりと

柚香へと近づけてきた。


男はニヤニヤしながら立ち上がり、

ベンチの背もたれへと両手を掛け

柚香の逃げ道を塞いだ。



「ねー、この後俺と

イイトコロいこーよぉー」



じりじりと迫る男の顔。



(まずい!キスされるっ・・・)



そう思って目を固く瞑り

必死に顔を背けたとき―――――――。
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