手と涙 〜婚約者はピアノ講師〜
「声が大きいっ!

おじさんたちに聞こえたらどうすんのよ」


涼太は、持っているナイフをぶんぶんと

顔の前で大きく振った。



「大ー丈夫だって。

誰も聞いちゃいね−って。

見てみろよ。

俺んとこもお前んとこも

完全な酔っ払いだ」


「ちょっとソースが跳ねるでしょ!

こっちに向けないでよっ!」




そう言いながら辺りを見回すと、

主役の座るひな壇の近くで、

招待客に挨拶をしながら

お酒を酌み交わす涼太の父と

傍らで微笑む涼太の母がいた。




一番下座の親戚席を気にも留めていなかった。




さらに視線を動かすと、

柚香の父が名刺を交換しながら談笑していた。

母は顔なじみでもいたのか

お互い肩をたたき合いながら破顔している。


こちらも柚香の存在など忘れているかのようだった。



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