水島くん、好きな人はいますか。


わっ――とホームから人が押し寄せ、喧騒が戻ってくる。改札口から出てくる人たちをぼんやり眺めていると、電車が発車していくのが見えた。


「俺は万代に痛い目を見せるために、自分でも調べてんだよ。だからこうしてハカセにも教えてやれるっつー話」

「ハカセ、万代じゃなくて瞬にかけなっ」

「瞬を練習台にできるなんて、贅沢だなあ」


まだプロレス技の話をしている3人に、今の出来事は本当に数秒の出来事だったのだと実感する。


隣に、ホームを見たまま動かない水島くんがいる。


どくん、どくん。激しく脈打つ鼓動に、目が眩みそうになる。まるでわたしの周りだけ、空気が緊迫を纏っているみたい。


誰かが言い争っていたように聞こえたのは、こっちを見ていた男女3人の声だったのかな。


再び微かに聞こえた声の正体はきっと……あの子。


思い返せば思い返すほど、ぎゅう、と痛いくらいに胸が締め付けられる。


どうしてわたし、こんなに動揺してるの。

知らない子だよ? 年だってそんなに変わらないように見えたけど、同じ学院の子かもしれないじゃない。


そう思っても、的外れだとわかっていた。


わたしの耳が拾ったのは――“京”と呼ぶ女の子の声。


いつだって会える距離にいるのなら、あんな顔はしない。叫ぶように呼んだりはしない。


水島くんは振り返ってすぐ、間違いなく呟いた。


『――アヤ……?』



今、確かなことはひとつだけ。


あの子は水島くんと離れ離れになってしまった、未来のわたしだ。



< 166 / 391 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop