水島くん、好きな人はいますか。
「医者になりたいけん、俺」
「うん、そうだと思った。いっつも医学書とか、分厚くて難しそうな本、読んでるから。……勉強をしに、転校してきたんだね」
「コンビニもない森と田んぼばっかの田舎からな」
顔を上げた水島くんは少し照れくさそうにする。わたしは微笑み返し、首が痛くなるくらいぐっと空を仰いだ。
「お医者さんがピアスかあー」
「これはいつか塞ぐけんっ」
「ふふ。変なの」
塞ぐのに開けちゃうなんて、やっぱりピアスには意味があるのかもしれない。
……考えたくないんだけどな。
水島くんが外部入学生として数日遅れで転校してきたときには、すでにピアスをしていたこと。ふたつ目のピアスを開けたのが、あの子を見掛けてからだということ。
常磐苑学院に通う生徒の大半が進学希望する大学に、医学部があるということ。
わたしたちは中高の6年間、大学受験を前提にカリキュラムが組まれているということ。
水島くんは本気だ。勉強をしに、医者になるために、住み慣れた町を離れたんだ。
「……水島くん」
「うん?」
「そのピアスは、なにかの決意ですか」
わずかに目を見張った水島くんは自然と伏し目がちになり、自嘲気味に笑うと、ピアスをひと撫でした。
「そぎゃん格好いいもんじゃなか。前に、兄貴の真似したって話したじゃろ? 兄貴が、ピアス開けると運命が変わるって言っちょったの思い出して……半信半疑だけん、気休めみたいなもん」