水島くん、好きな人はいますか。
そぞろに屋上から見える景色を展望した、水島くんの瞳。
時たま愁いを帯びるけれど、溶けず消えないなにかを宿す眼差しは、どこを見ているんだろう。なにを探しているんだろうって思っていた。
転校してきた理由や将来の夢を知って、想像は前よりずっと色を持って、膨らんでいく。
「誓ったけん。今より子供で、どうしようもなく単純で、なんだってできると思っちょった頃に」
「……なにを?」
「運命なんて俺が変えてみせる、って」
水島くんは「アホじゃろ?」とおかしそうに付け足す。だけど茶化すことなんてできなかった。
水島くんの頭なら、医学部に入るのは困難じゃないと思う。
だからきっと、水島くんが変えたい運命は、迎えたい未来は、医者になりたい夢とはべつにあるような気がして。
それは、半信半疑でも気休めが必要なくらい、困難なもの……?
「なんか俺、しゃべりすぎちょーね」
合わせた両手を口の前にかざした水島くんが、はにかんでから表情を窺ってくる。わたしは首を振って、心なしか安堵した。
なんとなく、訊きたいのに知りたくはない。
ぐるぐる。ゆらゆら。がたがた。
わたしの中のなにかが回って、揺れて、もがいている。
それがどうか、心の深奥に閉じ込めた未成熟な感情でなければいい。
……なんて厄介なんだろう。
想像が現実になってしまうことが怖くて、わたしにしか聞こえない声でいつも問い掛けてしまう。
ねえ、水島くん。
あなたが今いちばん会いたい人は、誰ですか。