水島くん、好きな人はいますか。

「わざと言ってる? 瞬の背が伸びたんだよ」

「あ、やっぱ万代ちゃんも思う? 瞬、伸びたよねっ」

「べつに体は痛くねえけど。やっぱお前が縮んだんだろ」

「やめて! 痛いっ」


わたしの頭を押し潰そうとするから瞬の手をはたいたのに、どうやら機嫌を損ねさせてしまったらしい。


毟られるかと思った両サイドの髪の毛を瞬は手早く結び、わたしの鼻の下あたりで締め付ける。


これで『ヒゲ』なんて言われたら、わたし、今後どう瞬に接すればいいかわからない。


「瞬、お願いだからやめて」


恥ずかしいし、巻き子ちゃんの視線が痛い。


けれど結ばれた髪の毛を解かれる気配はない。


「髪伸びすぎじゃねえ? うっとうしい。切れば」

「嫌だよー……。短いとさらにうねるもん」

「――瞬って髪短いほうが好きなの?」

「長すぎても邪魔だろ。みくるくらいがちょうどいい」


「へえ~」と少し顔を引き攣らせた巻き子ちゃんに、瞬はやっとわたしの髪を解放してくれる。


「さっさと日誌出して帰れよ」

「万代ちゃんばいばーい」

「……お気をつけて」


2階の踊り場で、ふたりの背中を見送った。


みくるちゃんばかり大変な思いをしているんじゃないかと思っていたけど、好かれる側の瞬も大変らしい。


わたしが平和でも、どこかは平和じゃないなあ……。


職員室へ日誌を提出したあと、1階の科学室へ向かう。


そういえば瞬に話すの忘れちゃったな。
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