水島くん、好きな人はいますか。

「……そう呼ばれてることは知ってるけど。くだらないとは思わない」

「なーるほど。学院きっての秀才くんは言うことが違うね。どうでもいいってことだろ? さすが、女子を振りまくってるだけのことはある」


ひやりと背筋が冷たくなったのは、水島くんが腰掛けていた机から降り、こちらに向かってきたからだった。


まさか喧嘩とか、しないよね?


水島くんだもんね……急に殴ったりとか、ないよね?


すっと水島くんの手が島崎くんに伸びる。


反射的に身を乗り出したわたしは、水島くんの手に持たれた花に面食らう。それは島崎くんが持っていたもので。


なにを言うでもなく水島くんはわたしの机に置かれた花瓶を持ち上げ、それに花を生けた。


ほんのわずかな、ひと瞬きのあいだ。水島くんは内緒話をするみたいに、こっそり、わたしに微笑んだ。


それだけで、もう。笑顔ひとつで、諭されて。


なにを伝えられたかはわからなくても、安心が心に根を張ったそれこそが、真実で。


――だめだよ。


そう思ったときには閉じ込めていた感情が溢れ出していた。


自分で制御できないものに翻弄されるのは、変わらずわたしひとりだけでいいのに。


これが外に出たら、きっと水島くんを困らせてしまう。


背後から聞こえた音にそろりと見向けば、生徒用ロッカーの上に戻された花瓶が目に入った。


そして水島くんも振り返り、今度はいつものように「万代」ってなんの曇りもない、無邪気な笑顔を浮かべるんだ。
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