水島くん、好きな人はいますか。
◇
登校時間、わたしはスクールバッグを肩にかけたまま、D組の前から動けずにいた。すると、さきほど別れたばかりの瞬がC組から出てきてしまって、「は?」と言われてしまった。
「おい。なにやってんだ」
「う、うん。ちょっと」
「ちょっとってなんだ。……ああ、京か」
さすが瞬。D組を見遣ってすぐわたしが教室に入らない理由を言い当てた。
「めずらしいな。朝礼より早く登校なんて」
そう、だから思わず隠れてしまった。今までわたしよりも早く登校するなんて一度もなかったのに……。
「まさかこのままシカトするわけじゃねえよな」
「しないよっ! しないけど、わたしにも予行練習したプランってものが……っ、」
廊下の先に目を留めると、疑問符を浮かべた瞬がうしろを見遣る。そこには、わたしに笑顔で手を振り掛けたみくるちゃんがいた。
ど、どうしよう……いや、ふつうに『おはよう』って言えばいいんだけど。
「ひっ!」
バンッ!と背後から響いた音はあまりに不意打ちで、小さく叫んでしまった。
急になに! 振り返れば、今度は度肝を抜かれる。
さっきの音は水島くんがドア枠を掴んだ音だったらしい。
なんとも表白しづらい面もちの水島くんは、ゆるりと目元に笑みを帯びる。