水島くん、好きな人はいますか。




登校時間、わたしはスクールバッグを肩にかけたまま、D組の前から動けずにいた。すると、さきほど別れたばかりの瞬がC組から出てきてしまって、「は?」と言われてしまった。


「おい。なにやってんだ」

「う、うん。ちょっと」

「ちょっとってなんだ。……ああ、京か」


さすが瞬。D組を見遣ってすぐわたしが教室に入らない理由を言い当てた。


「めずらしいな。朝礼より早く登校なんて」


そう、だから思わず隠れてしまった。今までわたしよりも早く登校するなんて一度もなかったのに……。


「まさかこのままシカトするわけじゃねえよな」

「しないよっ! しないけど、わたしにも予行練習したプランってものが……っ、」


廊下の先に目を留めると、疑問符を浮かべた瞬がうしろを見遣る。そこには、わたしに笑顔で手を振り掛けたみくるちゃんがいた。


ど、どうしよう……いや、ふつうに『おはよう』って言えばいいんだけど。


「ひっ!」


バンッ!と背後から響いた音はあまりに不意打ちで、小さく叫んでしまった。


急になに! 振り返れば、今度は度肝を抜かれる。


さっきの音は水島くんがドア枠を掴んだ音だったらしい。


なんとも表白しづらい面もちの水島くんは、ゆるりと目元に笑みを帯びる。
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