水島くん、好きな人はいますか。
「やっぱり万代」
「……、お、はようござい、ます……」
声が聞こえたのかな。それとも教室の中から瞬の頭が見えたとか。どちらにしても、水島くんが廊下に出てまでわたしを出迎えてくれた理由にはならない気がした。
登校時間のざわめきに紛れ、言葉を沈ませるわたしたち。
1週間前、微妙な別れ方をしてしまった水島くんを避ける気はなくとも、瞬とみくるちゃんにも意識を引っ張られる。
視線、が……。
自分のそれが一か所に定まらないのを感じ、ぎゅっとスクールバッグの紐を握り締める。と、
「おっ……はよう!」
急に間近でぼんっと傘を開かれたような。ほどなくしてから今のが挨拶であると理解できたものを発したのは、みくるちゃんだった。
「お、おはようっ」
「はよ」
「……おう」
わたし、水島くん、そして瞬が挨拶を返す。どことなく顔が強張ったままのみくるちゃんは「うん」と大きく頷いた。
ちりちりと焦げるように、胸が、熱くなる。
それは勇気に、涙のあとへ続く力に、変えて。