水島くん、好きな人はいますか。


最上階にプラネタリウムがある文化総合センターを出ると、湿っぽくて少し冷たい風が、肌の上をすべっていく。


1階と2階に挟まれた外ロビーは、上階の敷地面積のほうが広いため、屋根代わりに雨をしのげた。


これからどうするのかな。帰るってことはないだろうし、1階にある喫茶店で、座ってお茶……とか?


歩道に面したゆるやかな階段を見ていれば、


「ごめんな、万代」


と水島くんに謝られ、数分前『休館?』とふたりで声をそろえたことを思い出す。


「ふふ。もういいってば。気にしてないよ」


おかげでプラネタリウムに着くまで張っていた気が、ゆるんだ。


「万代じゃなかったら、誘う前に上映スケジュールくらい確認しろって、怒られるんじゃろなー」


わずかに申し訳なさが見え隠れする、水島くんの笑み。わたしの返事は目を細めるだけにとどめた。


怒ったりしない。休館だったのは残念に思うけど、水島くんに観てほしかった気持ちのほうが強かった。


雨ばかり降る空は、くもりだから。


わたしは、夏が待ち遠しくなるような気持ちはまだ、欲しくないけど。水島くんが見上げる空に星が瞬かないのは、なんだかとても、切なくて。


「ちょっと話さん?」


向けられた静かな笑みが、胸を軋ませる。


こくり。頷くと水島くんは先にある階段には向かわず、そばのフェンスに肘をかけた。
< 339 / 391 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop