水島くん、好きな人はいますか。

・涙雨のち天気になる



期末テストを終え全校生徒がテスト休みに入った7月中旬、サマーキャンプ初日を迎えた。


生徒42名と引率の先生3名がスクールバスに揺られ、約1時間で軽井沢に到着。


「ううわ。超自然。まじで現実にあんのな」


どうしてちょっと引き気味なの。大自然に失礼だと思う。


「ていうか思ってたより、昭和風、だね……」

「僕は廃校間近の分校に見えるよ」


部活の強化合宿や研修などにも使われる、ほとんど黒に近い木造建ての常磐寮を前に、みくるちゃんとハカセまで率直な感想をもらす。


「どこに驚いちょるんか少しもわからん」

「ふっ。京お前、どんだけ田舎で育ったんだよ」

「なに笑っちょーか! 田舎バカにすんなやっ」

「てめえこそ都会嫌いのナチュラル派きどってんじゃねえっ!」

「なんかやそれ! 嫌いなんて言っちょらんじゃろ!?」

「瞬も水島くんも落ち着いて! ほら、深呼吸!?すれば!? 空気おいしいよ!」


両手を広げて割り込んでみれば、ふたりは口論をやめてくれた。と思ったら水島くんは軽く吹き出し、瞬はにやにやと口の端を上げる。


「でたよ『空気おいしい』。聞いたかお前ら。まじで言うやついたぞ」

「くっ……おいしいのは本当だけん、いじるなや」

「さすが万代。期待を裏切らねえ」

「嬉しくないしバカにしてるでしょっ!」


「あはははっ!」と水島くんを筆頭にみんなが笑うから、わたしは真っ赤になりながら意地になって「おいしい」と言い続けた。
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