水島くん、好きな人はいますか。
「怒るって、京がいるから? 瞬も同じようなこと言ってるけど、そもそもなんで瞬が怒るわけ?」
「……わかんない」
「わかんないで言うこと聞いてんの!?」
声を張ったみくるちゃんは口を手で覆い、居残っている塾生に苦笑を浮かべながら頭を下げた。
そのあとすぐに「出よっか」と言われ、塾をあとにする。
「よし、わかった」
外に出るまでなにやら考え事をしていたみくるちゃんが言う。
「万代、やっぱり勉強会おいでよ」
「……え? でも、」
「瞬のことならなんとかしてあげるから! 万代も勉強するだけって軽い気持ちで来ればいいじゃん! ね?」
「……、……うん」
「やった! じゃあ、またメールするね!」
嬉しそうに笑うみくるちゃんにもう一度断ることはできなくて、頷いた。
勉強するだけ。周りにいつもと違う人が、いるだけ。
帰路についたあと、ずっと自分に言い聞かせていた。
だけど帰り道に届いた≪万代と私服で会うの初めてだよね。すっごい楽しみ!≫というメールにいっそう緊張してしまった。
みくるちゃんは瞬や水島くんを入れて男女8人とよく一緒にいる。みんなかわいいし、かっこいいし、成績も上位の人ばかり。
その中に自分なんかが交じるとか……。
今回はひとり欠席らしいから穴埋めのようなものだろうけど……ちょっとだけ、交じってみたい気持ちもある。
わたしには怒ってばかりの瞬は、A組の友達といるときはよく笑うから。