水島くん、好きな人はいますか。


ず、と鼻をすすって瞬の胸から離れると、不器用な指先がわたしの頬に残る涙を拭ってくれた。そんな瞬があったかくて、涙ぐんでしまう。すると、


「いいか万代。今度は絶対、好きな奴の、いちばんの女になれ」


鼻先に小指を差し出してきた瞬は、微笑んでいた。


「ふっ……なにそれ。……瞬、ちっとも過保護卒業できてない」

「今日が卒業式なんだよ」


ばつが悪そうに口を尖らせながらも、瞬の小指は宙に置かれたまま。


「忘れんな。俺はずっと、お前の味方だ」

「忘れられるわけ、ないじゃない……」


人生でいちばん騒がしかった日々も、共有してくれた幼なじみのことも、友達のことも、なにひとつ忘れられないよ。


「だから、別の約束にしよう」


簡単に会えなくなっちゃうから。もしかしたらその間に、本当にもう二度と、会えなくなるかもしれないから。


めいっぱい別れを惜しんで、さよならを交わそう。そして泣きながらでも、約束を結ぼう。


「きっと、きっと、また会おうね」


それは水島くんの夢が、わたしの夢が、叶ったときかな。


未来を楽しみに、わたしも明日を、迎えにいくよ。



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