水島くん、好きな人はいますか。
「ここ、また間違っちょる」
「……」
「万代は応用問題が苦手だけんねー……。引っかけ問題も98%くらい引っかかるじゃろ」
ぷっ、と小馬鹿にしたように笑う水島くんを失礼な人だと思いながら、解いている問題から目を離さずに言う。
「水島くん」
「うん? その問題わからんかや?」
「ご自分の勉強はしなくていいんですか」
「それが、万代の珍解答が気になって気になって……ここも間違っちょーよ」
「……、ありがとうございます。でも、全部解いたら自分で確認するので、もう言わなくて大丈夫です」
「ん。了解」
そう言った水島くんが微笑んでいることが声音でわかる。わたしは顔を合わせることなく問題を解き続ける。
すると、両開きになっているノートの左側にペンを持った手が現れる。空白にさらさらと書き込まれいくのは、なぜか震えて涙を流すリスだった。
そのあとリスの頭上に吹き出しが添えられ『ニアミスです』と書き込まれた。
「~っ水島くん!」
「はははっ! 口では言っちょらんが!」
「そうだけど、でも、バカにしてるっ」
「しちょらんって。親切じゃろ?」
「からかって遊んでる……っ」
「今日は勉強会。勉強見ちゃることはふつうだけん」
頬杖をついて口角を上げる水島くんに、次の言葉が出てこない。そんなわたしを満足そうに見つめる水島くんにどう反応すべきなのかは、もっとわからない。